立山剱氷河・万年雪の用語集  2013/05/21版
     
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アイスレーダ(ice radar)

下向きに電波を出してはね返ってくる電波をとらえ,氷や積雪の厚さ、内部構造を観測する機械。

近年,登山用のザックに入るくらい小型化がすすみ,剱岳の雪渓のようなアプローチが悪い場所でも,観測可能となった.

写真は御前沢氷河での観測の様子。
【あ】
アイスレーダー
永久凍土
池ノ谷右俣雪渓

【か】
カクネ里雪渓
完新世
岩石氷河

涵養域
内蔵助雪渓
クレバス
圏谷
更新世
御前沢雪渓
小窓雪渓

【さ】
最終氷期
三ノ窓雪渓
GPS
シュルンド
周氷河地形
白馬大雪渓
消耗域
スノーブリッジ
スラスト
雪渓
雪線

【た】
第四紀
立山氷期
多年性雪渓
剱沢雪渓

【な】
日本三大雪渓
年層

【は】
はまぐり雪
針ノ木雪渓
氷河
氷河擦痕
氷河地形
氷河時代
氷食谷
氷体
フィルン
プロテーラスランパート
平衡線
変態


【ま】
迷子石

万年雪
ムーラン
室堂氷期
モレーン

【や】
薬師岳の圏谷群
山崎圏谷
U字谷
羊背岩

【ら】
流動
             
   
   
池ノ谷右俣雪渓(Ikenotan-migimata perennial snow
patch)
 


剱岳西面の早月尾根と剱尾根の間にあるS字型の細長い万年雪

全長700m、幅が最大で50m、標高1850~2300m

2012年秋の観測で雪渓下流部に厚さ40m、長さ200mに達する氷体の存在
が確認され、氷体は秋の一ヶ月間で11、15cm流動していた。氷体の厚さ
御前沢氷河よりやや厚く、流動速度は御前沢氷河の2倍以上に達して
いるため、氷河である可能性が非常に高い。

池ノ谷右俣雪渓は、剱岳西面にあるため、もし氷河であると認められれば、
富山の平野部から誰でも眺めることができる貴重な氷河となる。

なお、池ノ谷には左俣にも万年雪があるが、こちらは消滅する年もあるため
氷河の可能性は低い。
   
   
永久凍土(えいきゅうとうど,permafrost)

2年以上0℃以下の温度状態にある土壌や岩石のこと。

日本では,富士山と北海道の大雪山に分布.日本アルプスでは,立山の内蔵助(くらのすけ)圏谷と大汝山(おおなんじやま)の山頂付近だけで分布が確認されている.

写真は内蔵助圏谷の永久凍土
   
   
カクネ里雪渓(かくねざとせっけい,Kakunezato perennial
snow patch) 


鹿島槍ヶ岳北壁直下にある,長さ1km弱の万年雪.

1955~1958年に地理学者の五百沢智也によって,秋には氷体が露出し,
クレバスムランがみられ,末端からはグレーシャーミルクのような白濁し
た水が流れているのが確認されており,地理学者の間では,氷河の可能
性が高いと考えられている.

今西錦司も,晩年,「ケニヤ山の氷河と全く同じ格好であり,日本の万年雪
氷河に一番似ている」とコメントしている.
   
   
岩石氷河(がんせきひょうが,rock glacier)

表面が岩屑からなる形態的に氷河に似た舌状の地形。

氷に富む永久凍土が流れてできる地形だと考えられている。

長さはほとんどのものが数百m程度.日本にあるものは,ほとんどが,中身の永久凍土が消失した化石岩石氷河である.立山では,内蔵助圏谷内(写真)や一ノ越の西側斜面に分布している.
   
   
涵養域(かんよういき,accumulation area)

氷河上で、1年間に積雪が たまる量>融ける量 の場所を涵養域
と呼ぶ。涵養域は主に氷河上流部に位置し、1年中、雪に覆われている
場合が多い。

平衡線

写真はネパールヒマラヤ、ヤラ氷河の涵養域
   
   
内蔵助雪渓(くらのすけせっけい,Kuranosuke perennial snow patch)

長さ・幅とも150m,面積2ha,標高2700m前後

立山・富士ノ折立(2999 m)と真砂岳(2861m)を結ぶ稜線の東側にある内蔵助圏谷内にある多年性雪渓

1980年代に名古屋大学により,厚さ30 m近い氷体を持っていること,氷体には,かつて氷河として流動していたことを示す,下流方向にせり上がるスラスト構造が認められること,氷体の形成年代は,氷体中から採取された植物片の14C年代から,今から約1700年前の古墳時代のものであることが明らかにされた.

しかし,現在,流動しているか不明で,まだ氷河とはいえない.
   
   
クレバス(crevasses)

氷河内部の流速の違いにより,氷が破壊されて出来る割れ目.

深さは最大でも30 m程度.クレバスは氷河が流動している目に見える証拠となる.
   
   
圏  谷(けんこく,cirque)

圏谷とは氷河が地面をえぐってつくった窪地を指し,日本ではドイツ語のカールという言葉が使われることが多い.

立山連峰には,天然記念物の「山崎圏谷」,特別天然記念物の「薬師岳の圏谷群」など多数の圏谷がある.

写真は槍穂高連峰の涸沢圏谷.
     
 
御前沢雪渓(氷河)(ごぜんざわひょうが,Gozenzawa glacier)

長さ700m,幅200m,面積10ha,標高2500~2800m.

立山の主峰である雄山(3003 m)東面の御前沢圏谷内にある氷河

雪渓末端には,サル股モレーンとよばれる大規模なモレーンが存在する.冬には吹きだまり効果と雪崩によって積雪が15~20 mたまるが,融雪末期の10月には氷体が一部露出し,ムランがみられる.

2009年のアイスレーダー観測により,厚さ最大27mの氷体をもつことが明らかになった.2010年と2011年秋に実施したGPSによる流動観測の結果,雪渓下流部の氷体は,一ヶ月あたり10cm前後流動していることが分かり,氷河であると学術的に認められた.
       
 
小窓雪渓(氷河)(こまどひょうが、Komado glacier)

長さ1200m,幅200m,面積17ha,標高2000~2300m.

池ノ平山(2561 m)南東面と剱岳の三ノ窓尾根の間の狭い氷食谷を埋めて上流部では,北東方向,中~下流部では,東南東方向に伸びている氷河

冬には主に雪崩によって雪が集積し,最大積雪深は20 mに達する.融雪末期の10月になると氷体が所々露出するようになり,クレバスムランといった氷河に特有の地形が表面に出現する.

2011年6月のアイスレーダー観測により,長さ900 m,厚さ30 m以上の氷体をもつことが明らかになった.同年秋に行ったGPSによる流動観測の結果,一ヶ月で最大30 cm以上流動していることが分かり,氷河であると学術的に認められた.
 
       
 
最終氷期(さいしゅうひょうき,the last glacial period)

今から11万5000年前にはじまり,1万1700年前に終わった,最新の寒冷期(氷期)のこと.地球上の気温が平均で今より5~7℃低下した.

北米大陸やヨーロッパ北部には,厚さ3000 mをこえる巨大な氷河(氷床)が発達,世界の陸地の30パーセントが氷河におおわれた.日本アルプスや北海道の日高山脈にも,合計400の氷河が発達.現在,日本でみられる氷河地形のほとんどが,最終氷期に形成された.
 
     
     
三ノ窓雪渓(氷河)(さんのまどひょうが、Sannomado glacier)

長さ1600m,幅100m,面積13ha,標高1700~2400m.

剱岳の三ノ窓尾根と八ッ峰の間の狭く急な氷食谷を埋めて,東南東方向に伸びている氷河

冬には雪崩によって20~30 mの雪が集積するが,融雪末期の10月には氷体が一部露出し,クレバスムランが出現する.


2011年6月のアイスレーダー観測により,長さ1200 m,厚さ40 m以上の日本最大?の長大な氷体をもつことが明らかになった.同年秋に行ったGPSによる流動観測の結果,一ヶ月で最大30 cm以上流動していることが分かり,氷河であると学術的に認められた.
     
     
GPS(じーぴーえす、衛星利用測位システム)

Global Positioning Systemの英語の頭文字をとったもので,人工衛星を利用
して,世界中のどこでも位置が決定できるシステムの意味。


氷河流動の観測には,GPS衛星から送られてくる電波の波の数を数えて距離を測る「干渉測位」が可能な,誤差1 cm程度の高精度な機器が使われる.
 
     
シュルンド(Randkluft)

雪渓氷河と,周囲の岩壁との間にできる,すき間のこと.

学術用語では,ラントクルフト

三ノ窓雪渓(写真)や池ノ谷右股の雪渓には,深さ20mに達する非常に深い
ものが出現する.
 
 
     
     
周氷河地形(しゅうひょうがちけい,periglacial landfrom)

地面の凍結融解によって出来る地形.

立山,剱岳周辺では植被階状土(しょくひかいじょうど,写真)やソリフラクションローブとよばれるタイプの周氷河地形がみられる.
 
     
     
白馬大雪渓(しろうまだいせっけい,Shirouma perennial
snow patch)


単に大雪渓と呼ばれることもある.日本三大雪渓のひとつで,面積は剱沢
雪渓についで,日本の雪渓の中で2番目に大きい.

1995年7月に大規模な土石流により,雪渓表面がえぐられて全長1.3kmに
達する巨大な溝ができた. 雪渓の断面は,ほぼ全層が積雪層で,氷の層
がみられなかった.このため,大雪渓が氷河である可能性は無い.
 
     
     
消耗域(ablation area)

氷河上で、1年間に積雪が たまる量<融ける量 の場所を消耗域
と呼ぶ。消耗域域は主に氷河下流部に位置し、夏~秋には積雪が融けきり
氷体が露出している場合が多い。

平衡線

写真はロシアアルタイ、ソフィスキー氷河の消耗域 
 
     
     
  スノーブリッジ(雪橋,snow bridge)  

夏~秋になると雪渓の底は,河川の浸食によって大きくえぐられ,空洞が
発達する.この空洞の上の積雪が薄くなっている部分を,スノーブリッジと
呼ぶ.断面で見ると,あたかも氷の土手の両岸から,雪の橋が架かってい
るようにみえる.

立山剱周辺では,剱沢雪渓や北股の雪渓(写真)に,大規模なものが発達する.

なお,スノーブリッジが大きく発達する雪渓は,古い氷が残っていないので
氷河の可能性が低い.
 
     
     
スラスト(thrust) 

主に氷河の下流部で,動きの速い上流側の氷が,動きの遅い下流側の氷
にのしかかり,ずり上がってできる逆断層のこと.

断層面にそって氷河の底から持ち上げられた岩屑がみられることが多い.
スラスト構造は,氷河が流動している,もしくは,過去に流動していた証拠
となる.

 
     
     
雪  渓(せっけい,snow patch)

夏でも局所的に残る積雪のことを雪渓とよぶ.

写真は剱岳・平蔵谷(へいぞうだん)の雪渓.
     
     
第四紀(だいよんき,Quaternary)

現在をふくむ最新の地質時代で,寒冷期(氷期)と温暖期(間氷期)の繰り返しによって,特徴付けられる.

第四紀の開始時期は,今まで181万年前とされていたが,2009年6月に行われた国際地質科学連合-国際層序委員会の投票により,258万年前に改められた. 

なお,第四紀は更新世(こうしんせい,2,588,000~11,700年前)と完新世(かんしんせい,11,700年前~現在)に分けられる.
 
     
     
立山氷期(たてやまひょうき,Tateyama Stade)

最終氷期後半の3~1万年前の立山での氷河発達期で,富山大学の深井三郎教授によって名付けられた.

この時期には,立山カルデラ内にあった立山火山を主な源に,室堂平一帯をおおうような氷河が発達した.写真は立山氷期の氷河によって氷河擦痕がつけられた岩. 
 
     
     
剱沢雪渓(つるぎさわせっけい,Tsurugisawa snow patch)

剱沢小屋のやや下流~真砂沢ロッジ付近までの2km以上にわたってのびている日本最大の多年性雪渓.
融雪末期の面積は,平蔵谷,長次郎谷,別山谷,真砂沢谷を合わせると40haに達する.

秋には,スノーブリッジが発達して,雪渓の底から融解がすすみ,氷体の成長が妨げられているため,規模は大きいものの,氷河である可能性は低い.
2011年秋には,平蔵谷出合と長次郎谷出合の間がスノーブリッジだらけになりボロボロになった.断面を観察したところ,氷の層は確認出来なかった.
 
     
     
  日本三大雪渓(にほんさんだいせっけい)

剱沢雪渓白馬大雪渓針ノ木雪渓を日本三大雪渓とよぶ.

いずれも日本有数の大規模な多年性雪渓であるが,集水域がひろくて,
河川の浸食によりスノーブリッジが発達しやすく,古い氷が残らないために
氷河である可能性は低い.

写真は2011年10月下旬の剱沢雪渓. 
 
     
     
年  層(ねんそう,annual layer)

一年間に積もった積雪層のこと.

万年雪には木の年輪のように多数の年層がみられることが多く(写真),各年の境界には,岩石片や木の枝や葉などがはさみこまれた汚れた層がみられる.
 
     
     
はまぐり雪(はまぐりゆき,Hamaguri perennial snow patch)

剣御前小屋(2750 m)の北東側,剱沢の源頭部にある長さ,幅とも50 m程度の小さな多年性雪渓

その形と秋の時期に表面にみられる縞模様からはまぐり雪と名づけられた.
1960年代には,富山大学と北海道大学の共同調査で小さいながらも氷体を持っていることが確認された.1967年から現在に至るまで,名古屋大学によって,春と秋にその規模の測量が行われ,気候変動との関係が調査されている.
 
     
     
  針ノ木雪渓(はりのきせっけい,Harinoki perennial snow patch) 

針木岳の南側にある大規模な多年性雪渓

日本三大雪渓のひとつ.

近年は年ごとの変動が激しく,2009年秋に一旦,消失した.
 
     
     
氷  河(ひょうが,glacier)

山を,はうようにして流れる巨大な氷のこと.

日本雪氷学会編「雪と氷の辞典」では,氷河を「重力によって長期間にわたり連続して流動する雪氷体(雪と氷の大きな塊)」と定義している.
国際的に,しばしば引用される氷河の定義は「長期間にわたり存在する氷の塊(その上にある積雪も含める)で,地上で積雪の変態によって形成され,流動の証拠があるもの」である.

地球上には,現在約20万の氷河があり,陸地の10パーセントをおおっている.
     
     
氷河擦痕(ひょうがさっこん,striation)

氷河の流動によって岩や基盤岩の表面につけられた擦り傷のこと.

氷河が流れた方向を示す.

氷河擦痕に似た岩石の擦り傷は、積雪の滑動や地すべりなどの
地形形成作用でもできるので、区分が難しい場合がある。

写真は南極リーセルラルセン山地の氷河擦痕. 
 
     
     
氷河時代(ひょうがじだい,ice age)

地球の大陸上に大規模な氷河が発達する,寒冷な時代のこと.

地球は46億年前の誕生以来,数回の氷河時代を経験している.現在は第四紀と呼ばれる最新の地質年代に属しているが,この第四紀は高緯度地域に常に氷河が存在するため,氷河時代であるといえる. 
 
     
     
氷河地形(ひょうがちけい,glacial landform)

氷河が,その下の大地をほり,けずりとりながら進み,土や砂,岩石などその進路にあるもの全てをひろいあげ,運搬,堆積してつくりあげた地形.

圏谷U字谷(写真),モレーン羊背岩などは,典型的な氷河地形である.

日本では、本州の飛騨、木曽、赤石山脈、北海道の日高山脈にみられる。

写真はロシアアルタイのU字谷
 
     
氷 食 谷(ひょうしょくこく,glacial trough)

氷河によって削られてできる溝状の谷をひっくるめて氷食谷とよぶ.

U字谷や「」も氷食谷の一種.

写真はスイス・アルプスのU字谷.
     
     
  氷体(ひょうたい,ice mass)

氷の塊のこと.

氷河の氷の部分を氷体ということもある.なお,学術用語ではない.

写真は南極半島の氷河の氷体の断面。 
 
     
     
フィルン(firn)

氷にちかいぐらいまで固くしまった積雪のこと.

正確には,密度が0.55~0.83g/cm3の積雪のこと.密度0.83g/cm3をこえると通気性がなくなり,氷に分類される.
 
     
     
プロテーラスランパート(protalus rampart)

雪渓の前面に堆積した岩屑のつくる堤防状の地形。

日本では,内蔵助圏谷のもの(写真)がもっとも有名.
 
     
     
 平衡線(equilibrium line altitude: ELA)

消耗域涵養域の境界を平衡線とよぶ。地理学では、平衡線のことを

雪線
と呼ぶこともある。

平衡線は、積雪が多い年は下流側へ下がったり、気温が高い年は上流側へ
上がったりして毎年変化する。小さな氷河や、温暖化が顕著な地域の氷河
では、年によっては、氷河全域が消耗域になり、平衡線が氷河上にない時
もある。

なお、平衡線の高さは
平衡線高度と呼ばれ、夏の気温年降雪量から
大雑把に計算することもできる。計算された平衡線高度は、氷河が分布で
きる標高の目安になる。

日本アルプスの平衡線高度は、1957年に信州大の小林国夫教授によって
夏の3ヶ月間の平均気温から約4000mと推定された。当時は日本アルプスで
積雪観測がほとんど行われていなかったため、 暫定的に気温だけから
平衡線高度が求められた。

1970年代以降、日本アルプスでも積雪観測が行われるようになり、例えば
立山周辺は、世界的にみても豪雪地帯であることなどが明らかにされて
いった。しかし、積雪量を考慮して平衡線高度が計算されることは、何故か
なかった。小林説は21世紀まで半世紀近く生き延び、いつしか、「日本の
山は低すぎて氷河が出来ない」という説が、定説化していった。

2003年に北大の小野有五教授が、積雪量を全く考慮していない小林の
推定は平衡線高度を低く見積もりすぎで、立山周辺は、積雪量を考慮
すると現在でもギリギリ、平衡線高度に達しているとする論文を発表、
小林説はようやく否定され、立山周辺は平衡線高度に達している可能性が
でてきた。

 
     
     
変  態(へんたい,metamorphism of snow)

降り積もった雪が,時間がたつにつれて,おしつぶされて固い雪になったり,最後は氷になったりと変化すること.

     
     
  迷子石(まいごいし,erratics)

氷河が遠くから運んできて,残した巨大な石のこと. 
 
     
     
(まど,through valley)

剱岳の北方稜線にみられる,深い切れ込みのこと.

この「窓」は,剱岳をつくっている花崗岩の節理や断層運動による岩の裂け目を,最終氷期に谷頭まで発達した氷河がさらに深くまで削りこんで出来たと考えられているが,詳しい調査は行われていない.


写真は三ノ窓.
     
     
万年雪(まんねんゆき,perennial snow patch, glacieret)

雪渓の中で,夏に融けきらずに年を越すものを万年雪と呼ぶ。

学術用語では,万年雪のことを

多年性雪渓(たねんせいせっけい)
とよぶ.

万年雪の中には氷体を持つものがあるが,流動が確認されない限り「氷河」ではない.写真は剱岳・長次郎雪渓.
 
     
     
ムーラン(moulin)

氷河にできるマンホールのような「縦穴」のことである。

流動に伴って出来た氷の割れ目に,表面の水流が流れ込み、割れ目がひろげられて出来る。クレバスとともに氷河流動の証拠となる.

内蔵助雪渓では,直径1m以上,深さ20mに達するものが,秋に複数出現することがある.
 
     
     
室堂氷期(むろどうひょうき,Murodo Stade)

富山大学の深井三郎教授によって名づけられた,最終氷期前半の8~6万年前の立山での氷河発達期.

立山で氷河がもっとも低所まで拡大した時期で,立山東面では,一部の氷河が黒部峡谷にまで達した.写真は室堂氷期の氷河が運搬した花崗岩の礫. 
 
     
     
モレーン(moraine)

氷河が運んだ土砂で出来た堤防上の地形。

写真はネパールヒマラヤのキムシュン氷河のモレーン.
     
     
薬師岳の圏谷群(やくしだけのけんこくぐん,cirques in Mt. Yakushi)

薬師岳(2962m)の東面には,南から南稜の圏谷,中央圏谷,金作谷圏谷,その北側にある圏谷と,大規模な圏谷が四つもならんでおり(写真),この種の地形の好例であるとして1945年2月22日に国の天然記念物,1952年3月29日に特別天然記念物に指定された.

金作谷圏谷の中には,きれいなM字形をしたモレーンがあるが,最近,このモレーンは,岩石氷河ではないかという意見が出ている. 
 
     
     
山崎圏谷(やまさきけんこく,Yamasaki cirque)

立山でもっとも有名な氷河地形で,雄山~大汝山直下の圏谷壁と三段のモレーンからなる.

1904年に立山を訪れた山崎直方によって,雄山神社直下西面の圏谷として見いだされた.1925年に山崎の弟子で旧制富山高校(現富山大学)教授の石井逸太郎が,山崎を記念して命名,その後,1945年2月22日にこの種の地形としては典型的で,さらに室堂から大勢の人が眺めることができるとして,国の天然記念物に指定された. 
 
     
     
U字谷(ゆーじこく,U shaped valley)

氷河によって削られてできたU字型の断面を持つ谷。

立山東面にある御山谷や真砂谷(写真)が典型的なU字谷である.
 
     
     
羊背岩(ようはいがん, roches mountonnees, glaciated knobs)

別名、羊群岩や氷食円頂丘ともよばれ、氷河の底で岩盤が削られてできる上流側が丸くなめらかで下流側が階段状の岩のこと。

立山では,室堂山へむかう登山道沿いにあるものが有名(写真).
 
     
     
流 動(りゅうどう,glacier flow)

氷河は,1日かかって数センチメートル,多くても数メートル程度ゆっくり流れている.

この流動は,チューブからハミガキ粉がしぼり出されるように氷が自分の重さでおしだされたり(そせい変形),氷河の底が岩盤の上ですべったり(底面すべり)しておこる.


写真は南極ジェームズロス島で撮影した,流動で変形した氷河氷.